奥さんのひとりごと

小学生の頃、書道とそろばんを習っていた。
正確には、習わされていた。
習い事というものは、
一つくらいは本人の要望が通るものだと思うのだが、
うちは全く聞き入れてもらえなかった。

わたしは、書道教室の隣でやっていた絵画教室に
非常に興味があった。
隙間から覗いては、色とりどりの絵具に目を輝かせていた。
その度に先生に引きもどされ、こんな話をされていた。

『炭の濃淡で素晴らしい表現できるんだよ。
絵も書いてごらん。』

『炭はね、すごいパワーがあるんだよ。
感じてごらん。』

子供の頃は、その良さが理解できなかったけど、
今は解る気がする。

『姿勢を正し、集中する。一画一画丁寧に。
字の成り立ちには意味があったよね。
理解しながら、心で書くんだよ。』

先生はお手本通りにいかなくても褒めてくれた。
他には、自宅に招いてくれて華道、茶道も教えてくれた。
色々な事を通して、文化や歴史を感じることを教えてくれていたように思う。

今では親にも感謝している。
そろばんにしても、えらく古風で
衰退しそうなものを選んだなと思っていたけど、
それが逆に良かった。
今でも家計簿を横にぱちぱちとそろばんを弾いている。
その音がものすごく心地よい。
先生が教えてくれた炭も部屋に沢山置いている。

先生に出会えたことで、見えないものを感じる心が
少しだけ培われたように思う。